○乾性油




多くの種類の油があります。食用のオリーブオイルや菜種油などは身近なものですが、油絵具に用いられる油は、空気中の酸素を吸って酸化重合し固化する油です。代表的なものに亜麻仁油(リンシードオイル)やケシ油(ポピーオイル)があります。サラダ油に使われる紅花油(サフラワーオイル)も同じ仲間です。オリーブオイルは、永久に乾くことのない油で不乾性油といい、バインダーには使えません。乾性油は、酸化重合の過程において、透明で強靭な皮膜を形成することにより顔料を定着保護する理想的なバインダーとなります。

乾性油は、見かけ上、数日で乾燥するように感じられます。しかし、酸化重合反応は継続的に進行し、反応の終了には数年ないし数十年の時間が必要であるといいます。油絵の乾燥後、ニス掛けをする場合に半年から1年後という指定があるのは、ニスにより酸化重合反応の酸素が遮断され、十分に乾燥しなくなることを防ぐためです。

油絵の自然科学的意味の完成は、数十年を要することになります。乾性油が完全乾燥した後は、それぞれの乾性油の性格、制作時バインダーの使い方により物理化学的変化が違った状態で現れてきます。

たとえば、リンシードオイルを多用した場合には、画面の強度は十分で保存性に優れた画面を形成しますが、黄変も起こってくるでしょう。ポピーオイルを中心に使った場合には、黄変の発生はリンシードほどではありませんが、物質的に脆い画面となり、条件の悪い場合には亀裂や剥離を起こしやすくなるでしょう。



乾性油の種類

絵画作品で使われる乾性油には次表のようなものがあります。

  油色 原料種 乾燥性 堅牢性 黄変性 備考
リンシードオイル 早い 極強い 大きい 亜麻仁油
サフラワーオイル 中程度 強い 中程度 紅花油
ウォルナットオイル 遅い 弱い 小さい 胡桃油
ポピーオイル 遅い 弱い 小さい 芥子油




加工乾性油

乾性油の性能は、加熱したり光りに当てることで変化します。光沢や乾燥性、水との親和性を改善する目的で加工した油を加工乾性油といいます。一例をあげれば、スタンドオイルは、リンシードオイルを真空中で加熱重合したもので、油絵具に混ぜるとすばらしい光沢と透明性を発揮します。

加工方法 名称 油色   乾燥性 光沢 黄変性  
天日脱色 サンブリーチドオイル   生油を透明容器中で太陽光に晒し、脱色したもの。 中*5 淡色化
煮る ボイルドオイル   空気中で加熱し重合させたもの。ドライヤー添加の場合あり。 濃色化*3
真空加熱重合 スタンドオイル   真空中で加熱し重合させたもの。 中*5 大  濃色化*2
接水天日重合 サンシックンドオイル   水面上に油の膜を作り、太陽光によって重合させたもの。 ヤヤ早*5 淡色化*1
鉛添加加熱重合 ブラックオイル   鉛化合物を添加して、加熱重合したもの。 極速乾 褐色化*4
*1:絵具メーカーの一般商品では、安全性のため加熱加工し色がついています。
*2:加熱の程度により状態が変わり、6種類程度が市販されています。
*3:はじめからシッカチフを加えたものはより色が強くなっています。
*4:加熱の程度により状態が変化し、性質も変わります。
*5:わずかなシッカチーフにより、強い乾燥性を発揮します。

乾性油の加工は、油絵具の発生時期から画家にとっての重要な研究課題でした。思った通りの表現を得るためと、乾燥が遅く作業性の悪い乾性油による油絵具の性能を改善することが大切でした。また、乾性油に樹脂を加えて性能を付加することも盛んに行われたようです。これらの研究は秘伝とされ受け継がれました。今日、画家と絵具製造メーカーが分業したことにより、これらバインダーについての研究が作家の間で希薄になってしまったのは残念なことです。



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