1.厚紙に油絵を描くタブー 
 厚紙に限らず、水彩紙やその他の紙類、板、布地などに油絵具で描くことは、その乾燥過程におけるメカニズムのため、保存上の危険を伴います。
 すなわち、油絵具が乾燥する過程で起こる酸素を取り込み酸化重合して固化するという現象の中で、同じ系内に存在する紙や布などの有機物を「酸化」してしまいます。油は酸化することによって固化するわけですが、紙などは酸化すると分解され脆くなってしまいます。また、酸化されることにより変色の危険性も高まります。
 大量の乾性油を含んだ絵具を塗ると、紙などに染み込んだ油は、強く黄変してしまいます。
 油絵の保存性において、「厚紙」を使用することの危険性は上記の通りです。
 どうしても紙などに油絵具で描く場合には、膠やアクリルメディウムで絶縁層を作るのが普通です。

  しかしロートレックの作品をガラス越しに観察する限り、この問題点は指摘できないようです。更に彼は、このタブーとも思える技法を積極的に表現に利用しました。

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『自画像』 厚紙に油彩      

 1880年のこの作品では、油絵具は普通に使われています。あまり、溶き油を使わずに塗りこむように絵具を使っています。そのため、油絵具の油は大量に厚紙へ染み込み、画面全体を暗くしています。
 さらに、厚く塗られた部分の絵具は、乾性油分が吸われて固着材が少なくなったため、亀裂を生じているところも見えます。
 この塗り方では、光を描くために明るくしようとすると、より多くのホワイト絵具を使う必要がでてきます。まだ、この時期では、ロートレック独特の厚紙に描かれた油絵の味がでていません。

2.厚紙に油絵具で描く表現効果